アンモニア燃料エンジン、水素燃料エンジン
国際海事機関(IMO)で2018年に採択された「GHG削減戦略」では、2008年を基準として、2030年までに、輸送効率を40%以上改善、2050年までにGHG排出量50%以上削減、今世紀中なるべく早期の排出ゼロ、という目標が設定されましたが、2021年11月に開催されたIMO第77 回海洋環境保護委員会では、この目標を強化し、現行より野心的な目標を設定することが合意されました。
国際海運におけるGHG排出削減については、石油燃料を使用する従来型の船舶から、低・脱炭素燃料を使用する船舶への代替を促進するための更なる対策が必要とされ、すでにLNG、LPG、メタノールなどの代替燃料が使用され始めています。しかし、これらの低炭素燃料はブリッジソリューションとして有望視されているものの、GHG削減率が20%程度に過ぎないことから、当社は、脱炭素燃料の活用が不可欠と考えており、アンモニア燃料エンジンと水素燃料エンジンの開発に取り組んでいます。
アンモニア燃料エンジン(UEC-LSJA)
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UEC50LSJA(Ammonia fueled engine)
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アンモニア輸送船のイメージ
フルスケールのアンモニア燃料エンジン初号機7UEC50LSJA-HPSCR(シリンダ直径50cm、7シリンダ、高圧SCR装備)は、2025年に完成しました。着火温度が高く、燃えにくい特性を持つアンモニアを確実に燃焼させる事が課題となりますが、最適な燃焼制御を行い、出力100%負荷・アンモニア混焼率95%において、亜酸化窒素(N₂O)排出量は3ppm程度となり、温室効果ガス(GHG)排出量の90%以上の削減を実現しました。窒素酸化物(NOx)排出量は重油エンジンの約半分程度、未燃アンモニア排出量はほぼゼロ(NOx SCR後)であることが確認されており、アンモニア燃料運転モードでは重油運転モードと同等以上の熱効率であることも確認されています。
「アンモニアを燃料とする純国産エンジンの商用機を世界に先駆けて完成しました」に関するプレスリリースはこちら
アンモニア燃料エンジンの開発状況

アンモニア燃料エンジンの開発は、2023年5月から2024年9月にかけて三菱重工業総合研究所(長崎地区)におけるアンモニア燃料単筒試験エンジンにおいて約1000時間におよぶ試験運転を行ったのち、その試験で得られた成果と知見をフィードバックし、フルスケールのアンモニア燃料エンジン初号機を製造、2025年4月にアンモニア燃料での工場試験運転を開始しました。その後 、同エンジンにおいて、5か月間に亘り計700時間の入念な試験運転を行い、各種性能の最適化を進め、並行して有毒なアンモニアの漏洩防止・監視機能などの高い信頼性と安全性を確認したうえで、実際の船舶の安全運航と船員の安全確保のための十分な機能を備えたエンジンとして完成しました。

水素燃料エンジン(UEC-LSGH)

水素燃料エンジンは、DFガスエンジンの開発で培った技術を適用して開発します。水素を燃料とするエンジン開発の最大の課題は、燃えやすさゆえの燃焼制御にありますが、高圧噴射方式を採用することで安定的な燃焼を実現します。
初号機は、ボア35㎝の「UEC35LSGH」で、2026年度に完成の予定です。また、DF水素燃料エンジンの開発に引き続き、パイロット燃料が不要な水素専焼エンジンも開発します。水素燃料エンジンの開発に向けては、川崎重工業株式会社とヤンマーパワーテクノロジー株式会社とのコンソーシアムで取り組み、2021年には共同出資会社HyENG株式会社を設立しました。この開発も、産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業に採択されています。
水素燃料エンジンの開発状況

水素燃料エンジンの開発は、そのキーテクノロジーのひとつである水素燃料噴射技術を確立するため、水素噴射単体試験装置を製作・設置し、その作動試験を開始しました。今後、この装置を活用し、水素燃料噴射装置の構造や仕様などの設計細部の検証を進め、基礎データを蓄積していきます。その後、フルスケール実証用水素燃料エンジンの開発・設計・製造を進め、2026年に約1年間の実機検証運転を行い、2027年3月の完成を予定しています。


